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日曜の午後、木曜の夕方

写真が趣味になりました

『幽剣抄』(菊池秀行、2000年)を読んだ

この本は題名の通り、「幽霊」「剣術」に関する9つの短編からなっている。剣の道を究めようとする武士が、幽霊の起こす奇妙な事件を解決するために奔走するのが基本パターンであるが、どれも短い話の中に幽霊の奇妙さが織り込んであり、読んでいて充実感を得られるような良い短編集だった。

 

僕はアメリカのスティーヴン・キングの、特に中編、短編が好きなのだが、それは彼の短い話の中に含まれるダークさ、奇妙さの加減がちょうど良いからである。ちょうどいいというのは、ダークすぎてグロテスクな表現になっておらず、奇妙すぎて胡散臭いファンタジーになっていないという加減である。(キングの場合は訳わからん話も多いけど)

こうした加減のよさが『幽剣抄』にも感じられた。時代設定を江戸時代にすれば、不思議なことが起こってもおかしくないと言うのは乱暴な気がするし、いかにリアリティを出すかが難しいところなのだろうと思うが、実際の生活のふとした瞬間に湧いてくる怖さがこの『幽剣抄』にはあると思う。

いい短編小説を読み終えたあとの感覚は、ほんとうにおいしい料理を食べ終えた後の感覚に似ている気がする。おいしい料理といってもステーキや中華ではなく、和食のイメージ。おいしいものを少しだけ頂いて、一つ一つの味を噛みしめる感じ。

 

短編小説が面白い作家は本当に物語を語るのがうまい人なのだろうなと思う。

長編小説の場合は伏線を張り巡らせたり、一人称の視点を変えてみたりして物語をダイナミックに進めていくところがあるけれど、短編小説の場合は文章のうまさ(具体的にどう、といえないところが悲しいが)で読者の心を動かさなくてはいけないので、非常に作者の技量が問われるのではないかと思う。

そういう意味で僕はどんなに奇妙なネタでも文章力で語りつくしてしまうスティーヴン・キングが好きである。ちなみにスティーブン・キングでおススメの短編集は「夜がはじまるとき」「夕暮れを過ぎて」の2冊。少し前の「幸運の25セント硬貨」などは奇妙さがぶっ飛んでいて「は?」となる短編が多いのだが、これらは奇妙さを味わいつつも人間の心情などが描写されており、ちゃんとした小説になっているので満足度の高い短編集である。おススメ。

 

幽剣抄 (角川文庫)

幽剣抄 (角川文庫)

 

 

 

夕暮れをすぎて (文春文庫)

夕暮れをすぎて (文春文庫)

 

 

 

夜がはじまるとき (文春文庫)

夜がはじまるとき (文春文庫)